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交わらせろ

例えば、『ウェブページの BGM としてガンガン MIDI ファイルを鳴らしたい』という超糞な欲望を持ったが、具体的にどう xhtml でマークアップすればよいか分からない 、という問題があったとする。一般向けに翻訳すると、「ホームページに音楽付けるにはどうすればいいの」だろうか。

もし私が調べるのならば、例えば「xhtml midi マークアップ」とかでぐぐるが、普通は「ホームページ 音楽を付けたい」辺りになる(ここでビビってはいけない、普通の人の検索語はこんなもんだ)。「俺様はパソコンとか詳しいんだぜ」なんていうちょっとイタい厨房は、「タグ 書き方 音楽ファイル」辺りでぐぐるだろう。それぞれのキーワードで表示されるサイトを見比べて欲しい。おっそろしいレベルの違いがある。

俺の検索語では、DTDの解説サイトがトップに出る。俺はこれを望んでいるだろう。「ホームページ 音楽を付けたい」では、Microsoft Word での具体的な操作方法が出てくる。まあこれはコメントする気も萎える。「タグ 書き方 音楽ファイル」では、なにやら「タグ」とやらを誤解した解説したページが出てくる。

ただ、どの言葉で検索しても、一応の目先の問題に対する回答は得られそうである。俺が考えたいのは、専門的な言葉や概念を知らない素人は、そこから先どれほどの深い理解にまでたどり着けるか、というところだ。

はっきりいって、「xhtml midi マークアップ」といったキーワードで検索して出てきたウェブページを見る人と、「タグ 書き方 音楽ファイル」で出てきたページを見る人とは、一生交わらない可能性がある。ハイパーリンクをたどって知的探訪を行う場である、というのが初期のウェブが持っていた幻想であるわけだが、今現在「ホームページ 音楽を付けたい」といったキーワードで検索する人は、多分「マークアップ」という用語までたどり着くことはないと思う。そして、マークアップというキーワードを理解しない限り、xhtml 近辺のことは何も分からない。

この違いは、何も別に高尚なわけではなくて、普通の人が単に技術的に適切な言葉や概念を知らないだけというところにある。たったそれだけのことで、専門家とそれ以外とがものすごく乖離してしまうという、よくある問題でもある。だけど、ウェブのおかげで、普通の人が専門家に近づくべきチャンスとでもいうようなものが、逆説的に減ってきてしまってるかもしれない。

今の多くのウェブサイトには、「できない人を導いて、全体の質をより高める」とでもいうような、理想があるだろうか。まあ、あんまないだろーな。専門家は、専門家やその周辺に向けて自らの作業をまとめたり提案してればよく、そこには普通の人が入る余地はない。結局普通の人も含めて、近しい人同士のコミュニケーションのためにウェブを使っているんだ。別になにかを向上させる必要は無く、既存のツールを使ってコミュニケーションできていればそれでいい。「タコ」と呼ばれるような自助努力で頑張る健気な初心者は、ビットの彼方へ行ってしまったのだ。

専門家は象牙の塔的にゴニョゴニョ集まり、一般大衆は適当にみんなでガーッと集まって騒ぐっていうような二分化したあり方を批判するのはとても簡単なのよ。啓蒙が大事よとか言うのも簡単なのよ。後は、やろうとしてる人がどれだけいるかってことで、何をどれだけやれるかってことだ。押し寄せる虚無感と戦いながらそれでも毎日睡眠時間を削ってがんばっている友人を見て、そう思った。

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著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2006-09-26 17:58:12


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