『電車男』って胡散臭いよね。書籍化の上に映画化ですかーご成功はお祈りしときますー。20台半ばの女性がピンクのスカートにツインテールというありえない格好をしてる不自然さみたいな、語りつくされている疑問点はおいといて、他人が指摘してないと思われるポイントを述べてみよう。今更な話題なのは、今更考えたからだ。そりゃー去年話題になった頃にまとめサイトには目を通したけど、キモかったからスルーしたんだよね。
まず気に入らないのは、オタクがちょっと努力して脱オタクして適宜ブランド物なども消費しつつ普通に恋愛する、という物語の骨子だ。オタク暦=年齢マイナス6年くらいのオタクたる俺としては、こういう展開は許し難い。あのさぁ、オマエラは彼女に縞パンはいて欲しかったりとかしないのか?(縞パンてのはこういうパンツだ、念のため) ああ、今なんかの間違いでここを読んでる人たちが音を立てて引いていったのは分かる。普通の人にはキモかろう。それくらいは分かる。だがそれでも妄想しちゃう業の深さがオタクだろう。こんなオタクの恋愛じゃ一般人には理解されない。だからって、背伸びしてエルメスを出したりあっさりオタク趣味を捨てたり。そういう、初っ端から最後まで、多勢に迎合する主体性のなさが俺には不快だ。
バブル期に大流行した『一杯のかけそば』は、貧乏を乗り越えて出世という幅広い世代に大うけの典型的な立身出世の文脈だった。21世紀の『電車男』は、オタクとヒキコモリを乗り越え“ネット”を捨て“普通”に女とセックス。これが、現在の主体性なきオタクどもの理想なのか? いや、そうじゃないな。これは、「主体性のない若いヒキコモリのオタクどもも“普通”になりがたっているんだ」と信じたい人たちの欲望なんだ。わかってねーな年寄りめ、オタクってのはやりたくてやってんだよ。で、そういうしょうもないのをどうやって一般社会と折り合いをつけていくかってところでオタクは悩んだり諦めたりしてるんだろーが。
話を一般化しよう。つまり、電車男の根底には、「オタクとかネットとかやってるキモいヤツらも、ちょっとがんばれば“普通”の恋愛ができるんだよ」という付和雷同で思考停止な大衆的傲慢さがある。そして、この傲慢さは、一部のウブな2ちゃんねらーや、糞ほどに生産されているオタクコンテンツを口開けて受け止め続けるだけの無為な消費者や、ホームページ=インターネットだと思っている人たちや、オタクとかネットとかが不気味で仕方が無い年寄り世代には、非常に受け入れやすい主張だった。そういうことだ。
切込隊長のブログのコメント欄に、社会へ戻りたがってるオタク達の理想像を描いたものだとヌかしていた馬鹿がいたが、あまりに一面的で掘り下げが足りません。こういうのにばかり好かれる山本センパイはほんとに大変だと思います、素で。
もう1つ、より客観的な電車男についての違和感も書いておこう。
あのまとめサイトがなんであんなに気持ち悪いのかといえば、そこには2ちゃんねるなら当然あるはずの、否定意見や煽りが全く存在しないからだ。全員が電車男を大マンセー。うわぁ、気持ち悪い。ここは隣国(しかも北の方)のサイトか? 煽りなどの否定的な文脈を全部捨ててしまい、自分にとって都合のいい部分だけを抜き出した、大勢が一人の弱者を導きその努力を称える成長物語。「大勢が一人を」ってところがとてつもなく気持ち悪い。2ちゃんねるってのは、自分の意見が如何に普遍的じゃないかを確認できる場所だろう? 自分の意見や経験をあっさり否定する人と簡単にコミュニケートできる。これこそが2ちゃんねるの最大の魅力だろうに。それを完全に消している。
さらに、このマンセーぶりから思いついたことがある。『電車男』って、全部自作自演なんじゃないかという意見はあちこちに見つけることができるが、俺もそう思う、と言ってみよう。だってさ、もしあの本の中身の全部が自作自演(か、まとめサイトの人間とその身内による壮大な釣り)なら、新潮社はまとめサイトの人と契約するだけで、なんらの訴訟リスクもなく、堂々と出版できるじゃない。現状は、「著作権法に違反してはいるけれど、書き込んだ人が訴えてこないので何とかなってます」だと一般には認識されてるけど、それって間違いなんじゃないの? 『電車男』というのは、大多数が書き込んでるようなフリをした新しい小説の表現形態なんじゃないのかな。そう考えれば、新潮社が堂々と出版したのも納得が出来る。現行の著作権法では収まりきらない新しい創作の事例として、著作権法のあり方を批判してきた俺たちとしては、事例として使えなくなってしまうけどな。あーあ。
トップ主導のくせにボトムアップであるかのように装って、メディア展開してコンテンツを売る世界って、俺としてはものすごく願い下げ。まして頭の中にあるのが金儲けのことだけときちゃ。あーあ。考えることや調べることをサボるとロクなことはない。というわけで当時ちゃんとしたリサーチと洞察をサボったことは、とても後悔している。
著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2006-10-30 18:04:09