12月31日のミ-41b『osakana.factory』での新刊は、
- 『Little Moon Night Vol.3』
- 『Little Moon Night Vol.3』のPhotoShopファイルなどを全部格納したデータディスク
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何とか間に合った2008年用卓上カレンダー
という感じです。卓上カレンダーは、部数少ないです。
著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2010-05-22 03:09:20
先日、MIAUでも送付を呼びかけていた文化庁のパブリックコメントが公開された。MIAUの人達と雑談していたら、面白いものを見つけた。ニコニコ動画運営会社の親玉である株式会社ドワンゴの、ダウンロード違法化問題についての見解である。
少し長いが、PDFは読み辛いと思うので、全文引用する。
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/rokuon_iken_7_2_ihousite.pdf
違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画を第30条の範囲から除外すべきであると考えます。平成18年の音楽配信売上は535億円(前年同期比156%、日本レコード協会調査)であり、配信技術の進展やカタログの充実、 サービスの多様化等に伴うユーザー利便性の更なる向上により、今後もより一層の成長が期待されます。しかし、インターネット等 においては違法な利用による大量の音楽コンテンツが流通し、コンテンツプロバイダならびにコンテンツホルダに深刻な被害を与え ています。特に、音楽配信売上の9割を占めるモバイル向け音楽配信分野においては、一昨年頃から、違法音楽配信サイトが急増 し、その利用の蔓延により正規の音楽配信市場の成長が大きく阻害され、モバイル向け音楽配信のビジネスモデルの維持、 発展が困難な状況に至っており、私ども配信業界においても、事業の根底を揺るがす大きな問題となっております。拡大する音楽コ ンテンツの違法な流通を防ぎ、音楽産業の健全な発展を図るためには、違法音楽配信サイトからのダウンロードを著作権法第30 条の範囲から除外し、当該サイトの利用を違法とするとともに、民間レベルでの広報・啓発活動及び学校における著作権教育を一 層充実させ、ネットワーク環境に適合したITモラルの浸透を図ることが必要であると考えております。
なお、無許諾のアップロードを違法とすることで対応が可能との意見もありますが、コンテンツプロバイダならびにコンテンツホルダ の被害は、実質的にダウンロードされることにより生じるものであることから、被害実態を勘案した場合、違法サイトからのダウン ロードを合法とすることは適当でないと考えられ、また自動公衆送信においてはリクエストによって違法送信が行われ、そのリクエス トをするのはダウンロード側であることから、ダウンロードを違法とすることによって違法送信を減少させる効果が期待できると考え ます。
更に、海外で日本向けのサイトが多く公開されている事実を踏まえると、アップロード側だけへの対処だけでは違法送信を撲滅す ることが容易でなく、ダウンロードを違法とする実益があると考えます。
また、「ダウンロードまでを違法とするのは行き過ぎであり、インターネット利用を萎縮させる懸念をある」との意見もありますが、違 法サイトと知って(「情を知って」)録音録画する場合に限定するなど、適用外の範囲に一定の条件を課すことにより、「知らずに罪を 犯すリスク」をユーザーに負わすことのない制度設計が可能ですので、問題はないものと判断いたします。なお、私どもコンテンツプ ロバイダならびにレコード会社等のコンテンツホルダーも適正サイトを識別するためのマークを制定し、広くユーザーに周知を図る 予定であることを付け加えさせていただきます。
このパブコメのまとめには、『ニコニコ動画死守連盟』や、『神奈川秦野ニコニコ動画死守連盟』といった団体も名乗りを上げていて、彼らは当然の如くダウンロード違法化に反対している中、運営の親会社はぶっちぎりの賛成であるという構図が、とても面白い。筆頭株主であるAVEXの意向が強いのかもしれないが、まあ運営会社はこう考えているということだ。
で、長ったらしいから、今北産業(3行で分かるよう)にドワンゴの主張をまとめよう。
もうMIAUのシンポジウムで斉藤先生や小倉弁護士が述べてくれたり、あるいは俺が普段巻いているクダとかで議論が尽きているところだと思うんだが、一応、各点に反論しておく。
まず1点目。インターネットを初めとしたデジタルな情報通信技術の根本的な目的は、「伝達」ではない。これはよく誤解されるところであるが、情報通信技術の本質は、「複製の容易化」である。情報通信技術を用いた「伝達」とは、遠隔地へ情報をコピーすることであって、送ることではない。送信元にも同じ情報が残るのだからね。これは、手紙などの物理媒体による通信と根本的に異なる点だ。手紙は物理的に移動するが、FAXや電子メールは、「送信」とは言うものの、手元にも情報は残り続ける。インターネットとは、世界的なレベルで情報の複製を容易化するツールなのだ。これは技術的な本質だ。
さて、よくあるコンテンツビジネスというのは、誰にでもできる情報の複製を著作権法という法律で制限することによって、お金を儲けるという形になっている。レコードやCDを売るコンテンツビジネスは、このタイプだ。映画もそう、書籍もそう、エロゲーも同人誌もそうだ。他人にコピーされてしまうと、金が入ってこない。このビジネスモデルは、複製が完全に制限できることを望んでいる。だからこのモデルに従う限り、複製の容易化を本質的な目的とするインターネットとコンテンツビジネスがバッティングするのは、そもそも当たり前なのだ。じゃあコンテンツビジネスとインターネットは全て相性が悪いのかというと、そういうわけでもない。例えば地上波テレビの場合は、コンテンツを見るのに金を払う必要は無い。何故なら民法テレビのコンテンツは全てが広告であるから、広告を流し広めることのためにお金を払う人がいれば良い訳だ。このビジネスモデルは、実は複製の容易化を目的とするインターネットと相性が悪いわけではない。広告を流し広めるということを考える場合、複製のコストが下がった方が嬉しいからだ。
つまり、違法コピーがどうのこうのってのは、根本的にはビジネスモデルの問題なのである。コンテンツビジネス云々というのなら、「安く売れる情報をすごい高値で売る」という、現在のビジネスモデルを変えるよう努力するべきだ。iTMSや米Amazonの音楽販売は、「安く売れる情報は安く売る」という方法へシフトして、成功しているじゃないか。行政や立法が、私企業を利するために法律を変えようというように動いたりするのは、お門違いというものだ。
次に2点目。これは小倉弁護士が的確につっこんでくれてる。処罰をダウンロード側でやるとしたら、じゃあ具体的にはどうやるつもりなのか。我々が「違法」とされるコンテンツをダウンロードしたとして、どうやってそれを知るつもりなのか。サーバ側で通信のログを押収しても、パケットは中継されているかもしれないから、httpのログに残る通信先が本当に最終的なダウンロード先なのかを知ることは出来ない。ということは、ある日いきなり警察が令状と共に自宅を訪問してPCを押収し中身を調べる、っていう手順が必要だ。それを、本気でやるの? どれだけ金がかかるの? できるわけないよね? ということはザル法を作りたいのかな? 違法が常態となる法律なんて、要らないね。
最後に3点目。じゃあ、例えば、動画サイトなどをサーチエンジンの検索対象としてインデキシングすることはどうする? 動画ファイルを自然言語検索できるようにする技術を試みてる人がいたとして、その人が、現在「違法」な動画がいっぱいあることは周知の事実であるニコニコ動画をインデキシング対象にしたら、どう判断されるだろう? なんとも言いがたいよね。ということは、日本ではそういう技術は今後生まれないようになる、ってことだ。そうした抑止効果、技術者の発想や開発の自由を奪おうとする態度だけで、技術者の視点としてはもう万死に値する。ローレンス・レッシグが述べるように、法律は、ものすごく広範囲に渡って人々の行動を規制してしまう、とても危ないツールなんだ。「気配りするから大丈夫」なんてのは寝言どころではなく、今後数十年間に渡って日本からは技術革新が生まれないようにしますと宣言するに等しい発言だ。
そしてこのパブリックコメントの最大の笑いどころは、ドワンゴが自身を「コンテンツプロバイダ」と述べているところであろう。あなた方がやっているのは、コンテンツの横流しであって、コンテンツの制作じゃないでしょ? こういうコメントを出す彼らが目指している理想とするビジネスの形は、自身を「適法」な「コンテンツプロバイダ」と政府に認めてもらった上で、合法的にクリエイタからの作品を横流しして、その上前をハネて甘い汁を吸おう、と、まあ、そういう姿なのだろう。それって、ニコニコ動画に群れてタダで動画を見続けて「フリーライダー」と謗られる厨房より、ずっと悪質なフリーライドだと俺は思うね。
何だか、「UFOを信じる」とか発言した政府要職の人間がいるらしい。ここで、「UFO」を定義どおりに、「未確認飛行物体」のことだと考えると、「未確認な飛行物体の存在を信じる」ということになって全然意味を成さない。ということは彼の言いたいことは恐らく、「地球外の知的生命体による飛行物体が日々地球周辺をウロウロ飛んでいると信じている」ということなのだろう。バカも休み休み言って欲しいものだ。
このようにUFOをはじめとするオカルティズムを一刀両断に切って捨てると、その手の人たちからは、科学や論理を無批判に信奉している、と批判されるのだろう。だが俺は科学を信奉しているわけではない。科学の基本姿勢は、「疑う」だ。科学者は、既存の枠組みを疑い続け間違いを探し修正し続けるものだ。だから俺は、既存の学問を色々と疑っている。UFOをマンセーする人たちを俺が「バ~カ」と謗りたくなるのは、彼らの基本姿勢が「信じる」であるからだ。
宇宙人が存在しUFOが飛来していても、俺は一向に構わないし、むしろ世の科学者はそっちの方を期待していると思う。論理的な思考を常とする科学者という存在を、普通の人はUFO否定派の集まりだとみなしているのかもしれないが、それは勘違いだ。宇宙人を解剖したりUFOを分解したがるサイエンティストの方が圧倒的に多い。っていうかだな、むしろ全員そうかもしれん。
だが、UFOなり宇宙人なりというものの存在を科学的に認めるためには、あやふやな記憶や写真などの、判断材料とも言えない中途半端な記録をいくら積み重ねてもダメである。前提を疑い、論理展開を疑い、結論を疑いながら、疑問の余地がなくなるまで徹底的に調べ尽くせる存在を用意する必要がある。科学とは、そういう手続きを経ているものだからだ。「論理は本当に論理的なのか」というようなところまで疑ってきた科学者達は、「ある程度普遍的に通用する形で一定の見解を提示する手法」について磨きをかけ続けてきた。だから、多くの科学者があっさりUFOや宇宙人を認められるようそれらの存在を提示する方法は、ちゃんと用意されている。しかしながら、UFOを信じる人たちは、いつまでたってもその手続きが踏めない。
UFOマンセーな人たちが提示する「これは宇宙人の写真です」とか「UFOが着陸した跡です」とかいう怪しげな証拠には、山ほどの合理的な疑義が差し挟めてしまう。っていうかだな、存在するっていうならナマモノを持ってくりゃいいのだが、政府やらフリーメーソンやらの陰謀で毎度阻まれているのか、未だにナマモノは何も存在していない。であるからして、UFOという疑いの余地がでかすぎる存在を仮定しない方が、世界はスムーズに動く。
にも拘らず、こういうアホな事柄についてまじめに国会で問い合わせたり、あまつさえそれに答える人間が議員だったりするというのは、とてもおっそろしい。どう考えてもUFOより隣国のミサイルの方が怖いよ。合理的な脳味噌はどこにおいてきたのだろうか。
だがまあ、こういう合理的な思考が出来なそうな人たちも、国民が選んだ人である。人間は、常に合理的な思考を行うわけではない。ハイになってりゃ変な判断もするでしょう。ということは、合理的じゃない人も代表に(議員に)はなりえるだろう。だからまあ、こういう人が議員やっているってのは、良い現象だとは言わないけど、仕方が無い範囲だと思うんだよ。そういう人を減らしたいとは思うけどね。
それよりも俺の脳を悩ますのは、東京大学という日本で一番合理的な人達を集めて養成するはずの組織から、さらに合理的な人達だけが選りすぐられているハズの官庁という場所において、合理的な判断を下すための手続きが、全く行われていないことだ。まあ何のことかと言うと、これのことだ。
- ダウンロード違法化は「やむを得ない」、文化庁著作権課が見解示す
- 川瀬氏は「客観的に見ても、違法着うたサイトやファイル交換ソフトで、適法配信を凌駕するような複製が行なわれていることは事実」と指摘。これらの複製行為がなければ、ユーザーの購買につながるかどうかは定かではないとしながらも、権利者に対価を支払わない“フリーライド”の典型であると述べ、「総合的に判断すれば、30条改正はやむを得ない」との考えを示した
「適法配信を凌駕するような複製」というのが、どこで、どれくらいの数、どれくらいの期間に渡って、どれくらいの質で、行われているのかとか、ツッコミたいところは他にもあるが、何よりも度し難いのは、「これらの複製行為がなければ、ユーザーの購買につながるかどうかは定かではない」にも拘らず、「やむを得ない」という結論に飛びついているところだ。これは全く科学的でない。合理的でない。
「やむを得ない」、つまり、ダウンロード違法化が適切だと根拠付ける定量的な調査・研究はあるのか? 「違法流通被害額」というのは、把握された流通数に単純に価格をかけただけのものだから、ユーザの購買ということを考えたら、数字としては無意味だ。以前、「のまネコ問題で考える二次創作の創造性」という記事を書いた時にも述べたけれど、適法かどうか怪しいコピーによってパブリシティが上がり、クリエイターもウホウホになるというケースは、『日本ブレイク工業』や、『涼宮ハルヒの憂鬱』など色々な例がある通り、決して特異点ではないのである。また、違法化することによって、5年先・10年先のコンテンツ市場がどう変わっていくのか、という視点もない。例えば、情報通信産業が萎縮することによるマイナス面を計量するためのモデル化も行われていない。
つまり、この文化庁の主張は、合理的に主張を展開する時の手続き、科学の手続きというものを全く踏んでいない、一方的で身勝手な暴論なのである。こういう非合理的な主張を、一般人の代表として選ばれる政治家ではなく、選りすぐりのエリートであるはずの官僚が行ってしまうということは、心底恐ろしい。だから文化庁の判断は、そういう意味でも批判しておかねばならない。直接面識がある人を名指しでここまで悪く言うのも初めてだが、まあ仕方ないよね川瀬さん。
って思ったんだが、例の「UFO信じます」発言の官房長官も通産省の出自じゃないか。オイ、日本の官僚しっかりしろ。