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ある記事の削除で考えた、2010年代のオッサンの主戦場

ダ・ヴィンチニュースのある記事が削除されているのを見つけたので、その顛末を追いかけてみた (現時点ではまだGoogleのキャッシュで読むことは出来るが、いつ消えるかは分からない)。

さて、消えているのは『「本はもはや欠陥品だ」─マンガ・小説復権の鍵はアプリにあり!』という記事で、「オンラインサービスと本のプロモーションを考える会 第2回クロストーク」というイベントの紹介記事である。なんで消えたのかというと、この記事に対してクロストーク出演者の石橋編集長が猛抗議をした、というか、ほぼ罵声というレベルの批判をしたことに依る(ようである)。

「紙の本には欠陥があり、今後はコンテンツを愛する人のコレクターズアイテムになっていく」という趣旨の後半を落とした記事タイトルと本文は確かに片手落ちではあるかもしれない。ただ、石橋氏は「事実と異なる無茶苦茶な記事」と述べているが、それは言い過ぎである。だって「欠陥がある」とは言ったんでしょう?

現在出版社が出資するマンガサイトの編集長である石橋氏はさらに、この記事を書いたまつもとあつし氏を「メディアの意味も分からないアホなライター」とまで形容する。

俺はまつもとあつし氏とは多少の縁がある、というか、大学院時代の同輩(だか先輩だか後輩だか歳の上下は忘れてしまったが、とにかく一時期本郷で一緒に過ごしていた)なので、まつもと氏への贔屓目は多少入っているかもしれない。しかし、元同輩の記者が罵られたから、イベント告知以外放置していたブログをわざわざ再稼働させてまで記事を書く気になったというわけではない。これは、やや片手落ちのまつもと氏の書き振り(なり編集部の見出しの付け方なり)が悪いとか、怒りに任せた石橋氏の暴言が悪いとか、そういう話を超える問題だと思ったからである。

当該記事でのまつもと氏の主張はシンプルで、「紙の本はデジタルに吸われるね」という状況認識は出版業界人もできているしネットへの対応もガンガンしてますよという、まあよくあるストーリーである。そんな記事に対してなんで石橋氏が烈火のごとく怒っているのかを私なりに要約すると、先細りしている紙媒体の雑誌などは全部ネットに移してしまって、本を揺藍するための場としてネットプラットフォームを使おうという登壇者達の発想を、まつもと氏の記事がカバーしていないからであろう。

元同輩の贔屓目としてという部分を差っ引いても、まつもと氏は「メディアの意味も分からないアホなライター」ではないと思う。また石橋氏との面識はないが、彼の他のTweetを読んでいてもその有能さはうかがえるし、出版畑の旧弊な人間が嫌々ながらにネット事業をやっているなどということでは断じてなく、本とネットの将来を見据えて着実に目標をクリアしていく優秀なマネージャであるように見える。「出版社の編集者は紙の本に拘りすぎて現実が見えていない」や「雑誌というメディアはいずれ消滅すると言う現実に向かい合うべき」など、出版社資本のマンガサイトを率いるリーダーとしてはギリギリと思える発言もされている。

そして、この辺の考え方自体は、まつもと氏の発想とそう遠いところにあるわけではないはずである。なのになぜ衝突してしまったのか。

ここから先は想像に過ぎない。だから以下の話は妄想の翼を逞しくしての話であるということは前置きしておこう。

恐らくこの衝突劇の背後にあるのは、出版社や放送局などといった既存の巨大メディア企業がネットから取り残されつつあるという現在の状況にも関わらず、そういったメディア企業の中ではネットからこぼれ落ちる危機感が十二分に承知されているとは言えないというところ、そしてそういうメディア企業は組織として100%の力でネット対応ができてないという、若手中堅層の葛藤やもどかしさなのではないか。こうしたメディア企業では、同じ組織の中でありながらネットを使う層と使わない層との乖離があまりに大きくなってしまっていて、正直日常の雑談すら満足に通じなくなりつつある。そして、そういうネットを使わない人達が社の方針を明らかにヤバい方向けている(というのが俺の体感込みでの想像である)。しかしそれでも一つの組織として内部では折り合いを付けておかねばならない。そういう状況が、今中間管理職になっている30代・40代という層の大きな課題になっているはずだ。

そしてフリーのまつもと氏は、組織の中にいる人間の葛藤という部分をそれほど気にする必要が無く、一方で石橋氏はそういう組織内行政と日々戦っている故に土足で踏み込まれた気がしているという、そこの温度感の違いが当該記事の削除騒ぎの背景ではないかというのが俺の見立てである。合っているかどうかは分からない。ただ、ネットがインフラ化してもはや空気と化している世代とそれ以前との間には、マリアナ海溝レベルのギャップがあることについては、もはやわざわざ言うまでもないくらい日々体感できる現象ではあろう。

両者にとってあまり幸運な展開とはならなかった本件を肯定的に評価しようとすうるならば、ネットがどんどんインフラ化していく過程をどう俯瞰するかということを考える上で、ヒントにはなったんではなかろうか。うん、多分ね、これって「世代の問題の場外乱闘」みたいなもんだと思うんですよ。

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著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2016-02-16 20:26:41


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