とあるところで、青木雄二が「小さいころから、絵を描いたら誰にも負けんかった」などと言っていることを知って、俺は少なからぬ衝撃を受けている。確かに、彼のマンガ『ナニワ金融道』はテレビドラマ化されるまでに至った大ヒット作品である。
だがしかし、彼の絵を 1 カットでも見りゃみんな分かることだからわざわざ言うまでもないのだが、正直言って彼の絵は 下手 と評価されるレベルであろう。小学校でも、彼より絵の上手い人はクラスに 1 人か 2 人いたはずである。中学以後で美術やマンガ関係のサークルに入ったとしたら、良くてもブービー賞を争うレベルであろうと思う。だが、本人は「誰にも負け」なかったと豪語している。これだね!
ビジネス的にはもう成功したわけだし、現在の作品には作画担当がいるわけだし、もはや彼自身が自分の絵をどう評価しようが大勢に影響はない。むしろ、「自分の絵は稚拙だが、様々な経験に基づいたリアリティや説得力のお陰で、広く読んでいただけてるのだろう」、などと語った方が、月並みだがはるかに良いビジネス戦略だろう。でも、彼は自分の絵が上手いと豪語してるのだ。絵については、黒山が 2 つ 3 つできるくらいの罵詈雑言を浴びてきただろうあの彼が! つまり彼は、今でも本気で自分の絵が上手いと思ってるんだ! ワォ! ブラーボ!
岡田斗司夫かいしかわじゅんも言っていたのだが、彼の描き込みには、確かに尋常じゃない偏執的なものを感じる。パースという概念すらない世界に異常な量の主線。ゲシュタルトは歪みきってます。しかし、その異常な描き込みの結果妙な迫力が出る。例が適切じゃないかもしれんが、ヘンリー・ダーガーなんかにも通ずる世界だ。一般的な上手い下手という評価は、超越しちゃってる。究極的に言えば、なんというかあの怨念のような細部へのこだわりや、無闇に強固な思い込み、自らを省みて悩むより先に行動を起こすというポジティブな姿勢が、彼の成功の鍵だったのだろうと思う。
もし誤解されたらイヤなので断っておきますが、決して貶してるわけじゃありません。むしろかなり褒めてます。
著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2006-09-27 00:11:59