飛行機に乗りこむ前には、手荷物を検査されたり金属探知機で体を調べたりされるわけだが、その金属探知機に必ずひっかかる人というのがいるらしい。高校の担任が、自分はそういう人種だと主張していた記憶がある。別に、自分が金属を身につけていたという事実をずんどこ失念して平然と金属探知機に挑んでしまうような健忘症というわけでもなく、どうも身長の問題らしいとその長身の先生は自らの推測を披露していた。真偽の程は不明だ。ベルトのバックルや腕時計が平均的な位置より高いと、金属探知機は過敏に反応するらしく、手荷物検査のたびに身に付けているものを次々外していくことになるというようなことを言っていた。
さて、一応平均的な身長と体重を維持しているし、ナイフや火薬なんて扱う機会すらない俺には、手荷物検査で引っかかるなんて無縁な話だと思っていたのだが、先日見事に引き止められた。X線検査後に荷物を受け取ろうとすると、「ナイフのようなものを持っていますね?」とポーカーフェイスの検査官に問い詰められる。彼女にとっては多分ルーチンの質問だから別に他意はないんだろうけど、何十回と飛行機に乗ってきても機内持込の手荷物で呼び止められたことなんかない俺には、おっそろしい尋問に思える。ちなみに現在時刻は21時過ぎ、最終便が出るギリギリの時間である。あまり時間がない。
「え。持ってないと思いますけど……」と弱々しく答えたものの、「X線に刃が写ってますから」と毅然とおっしゃる。「カッターナイフのようなものが、下のほうに入ってます」。さらに、容赦なく「カバン開けてください」。まったく、俺がいかに雑然とかばんにモノ詰め込んでるかを知らないから、そんな毅然と「開けてください」なんて言えるんだぞ。今、俺がその雑然ぶりを分からせてやる。
で、恥ずかしいことに女性の担当官の前でカバンを開けて、使用済み下着(もちろん使用者は俺)とかをかきわけかきわけカッターナイフを探すことになったわけだが、これって性別が逆で国がアメリカだったら損害賠償モンだぞゴルァ。という屈辱的な 10 分ほどの時間をすごした後、持ち主がその存在すら忘れていたカバンの内ポケットから、カッターナイフが出てきた。めでたく取り上げられ、「私はカッターナイフみたいな危険物を機内に持ちこもうとした悪い子です。ごめんなさい」という文章に署名して(注:この表現は誇張しすぎです)、「お客様が最後ですのでお急ぎください」とせかす航空会社の人と一緒に走りながら、飛行機に間に合わせたわけです。F空港の手荷物検査官、本人もその存在を忘れていたカッターナイフと再開させてくれてありがとう。すぐ永久の別れになったけど。
まあ、ここまでならよくある話なんですよ。あんまよくない話なのは、俺、この内ポケットにカッターナイフ入れたままのカバンで、最低でも 3 回は飛行機に乗っているってところです。ええ、もちろん手荷物検査はオール O.K. でした。しかもそのうち1回はこの空港から乗ったよ!! がんばれ日本の手荷物検査官!!
著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2006-09-26 17:58:37