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メタメディア幻想

中学・高校の頃の俺は、ナケナシの現金を握り締めて、Too. や世界堂といった画材屋へ通っていたのよ。同人誌即売会の会場に行ってはデリータのスクリーントーンを眺めてもいた。安かったからね。で、そんな当時の最大の失敗としては、コピックという水性マーカ(まあフェルトペンのようなものだ)を購入してみたものの、どうしても綺麗に塗れずに惨敗したことだろうか。アレは痛かった。

なんでそんなものを買ったのかというと、それよりはるか前に、「鳥山 明が水性ペンを水溶きして色を塗っている」、「いや今はカラーインクらしいぞ」という噂が渦巻いたことがあった(カラーインクというのは、塗った直後の発色は抜群に綺麗だけどすぐ退色してしまう印刷原稿用の染料インクのこと)ようで、鳥山 明は抜群に絵が上手かったし彩色も上手かったから、多くの人がその「水溶き水性ペン」の手法を真似たそうな。俺がコピックを買って唸っていた頃というのは、そういったカラー技法を真似てた人達が「ファンロード」なんかで人気を博せるほどの実力を蓄えてきた頃でもある(水溶き水性ペンの起源が本当に鳥山 明なのかどうかは責任持ちません)。未谷 蛹さんとか K・春香さんとか。巣田祐里子さんなんかはもうプロでしたな。で、彼らは実に上手くコピックなんかを使いこなしていたわけだ。剣山に見えるくらいの数のコピックを持ち込んで同人誌即売会でスケブ描いてる姿なんてカッコイカッタのよ。

ぶっちゃけて言えば、当時のイタい俺は、画材を揃えば上手くなると思ってたフシがある。彼らと同じモノを手にすれば同じようにできるんじゃなかろうか、とね。まぁムリだったわけだ。今思えば、そのまま研鑽すりゃ人並みに出来るようになっただろうけど、厨房な俺には研鑽を続けるだけの金がなかった。高いんだ、コピック。それにコピックに合う紙も。またアルコールベースで乾燥が速いため、すぐかすれてくる。

さて。アラン・ケイはこんなことを言っている。「(コンピュータは)かつて見た事もない,そしていまだほとんど研究されていない,表現と描写の自由を持っている.それ以上に重要なのは,これは楽しいものであ」る。彼が考えてる「コンピュータを学ぶ」という概念は、今の日本で一般的に考えられるような「パソコンの使い方」というショボい意味とは違う。メタメディアたるコンピュータを使いこなすということは、ハードウェアの仕組みからプログラミング言語、アプリケーションを利用する技法に至るまで、コンピュータの面白くて新しい使い方を考える手立てを知るということだ。で、アラン・ケイとかテッド・ネルソンなんかは言うわけだ、みんながそうすれば世界は変わる、と。これからはみながそういう姿勢でコンピュータを学ばねば、と。

インターネットが一般に開かれた時、彼らの檄文のようなものを引用して IT がもたらすバラ色の未来を語る人は少なくなかった。ただそういう人達の前提は、みんなが適切にコンピュータを学び、存分に使いこなせるようになること、だったじゃない。決して、Word と Excel が使えることではなかった。でもさ、ムリだよね、世界中の人間が、表現の手法として主体的積極的にコンピュータに向かい、コンピュータやソフトウェアそのものを改善していけるような技術までを身に着けるなんて。

それはさ、「世界中の人間にコピックを持たせて必死に練習させれば、みんな鳥山 明くらいに絵がかけるようになるよ」、っていうくらいにむちゃなお題目なわけ。絵を描く意識のない人間が筆を取っても、絶対に絵は描けない。それに、意識を持っている人間ですら、向き不向きやコストの問題など、いろいろな障害に阻まれて先に進めないことがある。第一、こういう考え方って、実は全体主義のカタマリじゃん? 「全員まともなコンピュータリテラシをつけるべきだ」という主張に対しては、「技術決定論的な全体主義ウゼー」と一部の文系の人は反発するだろうにゃ。

ま、そんなわけで、90年代半ばくらいに夢想された 「真の IT 革命」みたいなのは、残念ながら絶対こないなぁ、というのが見えてきてる。コンピュータはメタメディアとして大きな可能性を秘めているとしても、メタメディアとしてコンピュータと向き合おうとする人間は、どうしても少数であって、で、さらに悪いことに、そういった人間は経済力も政治力も持っていなかったりする。

さて、コンピュータがメタメディアであることを理解している人間が取りえる次の有効なステップは、多分 3 つくらいあるぞ。

  1. 経済力と政治力をつけて愚民を洗脳する
  2. そういうのは 村井 純 御大あたりにまかせて傍観しておく
  3. むしろ積極的に諦めて自分の食い扶持増やすことだけ考える

うーん、2 かな。

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著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2006-09-26 17:58:21


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