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地デジカ騒動と「マスゴミ」という虚像

要約

地デジカ騒動について、あまりにいい加減なことを言う人が多いのでばっさりまとめた。著作権の問題だという人が多いようだが、問題の本質は著作権にはない。問題点は2つある。1つは、著作権はただでさえややこしいのに、著作権法にない「二次創作」なんて言葉を使ったせいで一層議論がややこしくなったこと。もう1つは「マスゴミ」体質のウェブメディアのせいで間違いが拡大したことだ。

地デジカのイラストを描くことに問題はあるのか?

まず、ここから始めよう。

あの鹿そっくりに描いた場合、怒られる可能性はある。その場合に、複製権だ同一性保持権だのといった、著作権法の概念を持ち出される可能性は高い。そして、pixivなどにのっけている場合、pixivごと怒られる可能性もある。これは事実だ。

しかし、美少女化なりショタ化なりムキムキな擬人化して描いた場合、それらに文句を言う法的根拠はほぼ無い。表現的に似て無さ過ぎるから、著作権で責めるのは不可能と想像される。常識的に考えて、変な色のスクール水着の女の子の絵を手当たり次第訴えられるわけがない。

商標が登録されていればそれで訴えることはできるかもしれないが、特許庁で検索しても出てこないので、現状、商標で文句を言うこともムリだろう。

だから、以下のような擬人絵を描いても文句は言いようが無いし、そこで地デジ行政を揶揄していたとしても、これまた文句は言いようが無い。こういうのは正当な表現行為だ。

地デジカではありません、全く関係ありません。黄色いスクール水着ですからね!

昔、こういう赤いプラスチックの外装を持つSONYのブラウン管テレビ、しかもトリニトロンになる遥か前、というのが実家にあったような気がするんだが、今更探しようもないので適当に描いた。閑話休題。

民放連の発言を注意深く読んでみる

そもそもの騒動の発端となったガジェット通信での記事を注意深く読んでみる必要がある。問題の根本はここにある。

記者はまず、「地デジカのイラストを掲載」することを「許すか」?と尋いている。これについて民放連は「無断掲載には厳しく対応していきます」と答えている。ここで考えなければいけないのは、民放連が何を想像しているかである。

ここでは、地デジカとして民放連が公表したイラストを、そのまんま勝手に掲載することについては許さないという意味だと考えるのが普通だ。これについてNOだということは、俺は驚くには値しない発言だと思う。ここまでで民放連は、「二次創作」なんて微塵も語っていないことに注意していただきたい。そのままのコピーは止めてくれ、としか言ってないと想像される。

記事に拠ればその後、「特に、二次創作キャラクターの作成や掲載につきましては、許されるものではありません」と続けたようであるが、じゃあこの場合の「二次創作」って何のことなのか。問題はここだ。民放連が何を二次創作として考えたのか、それはこの記事からは分からないんである。

以前、『同人作家も誤解する二次創作の「合法性」』という記事で書いたように、「二次創作」という言葉は著作権法の言葉ではない。俺が調べる限り、1990年代後半に一部のエロゲーメーカー、っていうか、つまりはLeafが使い始めてから広がった言葉であることは確かなようだ。

で、この言葉は極めて曖昧だ。元の素材をそのままつなぎ合わせただけの、著作権法的には限りなく黒い作品も、素材にあったアイディアを参考にしただけの、著作権法的には100%白い作品も、どちらも含まれる。

このインタビューの時に、民法連側がMADやコラなどの著作権法的に黒い「二次創作」を想像し、そしてそれを否定したがっていたとしても、何の不思議も無い。なぜなら、それはイキかどうかはともかくとして、現行法に基づく適法な要求だからだ。

それにも拘らず、彼らが「二次創作」という言葉で何を想定していたのかは確認せず、「地デジカをもとに美少女や萌え系のイラストを創作することは断固として許さない」などという、民放連側が言ってもいない上に、著作権法上否定することができない行為を、民法連が反対しているかのように記事をでっち上げたのは、他ならぬガジェット通信だ。

問題の根本

今回の件で民放連がイキでないことは確かだ。しかし、民放連はそれほど大きく間違ったことを言ってはいない。恐らくは、勝手にオリジナルのシカをコピーするなと言っただけだろう。むしろ、著作権法に載っていない「二次創作」という言葉の曖昧さに乗じて誤解を拡大させたガジェット通信にはそれなりに罪がある。

不確かなことを元に扇動するのが「マスゴミ」だというのなら、ガジェット通信がやったことはマスゴミの行動そのものだ。既存メディア対ネットっていう構造は、恐らく本質的な問題ではない。大きな声を出すメディアが、多くの人の信じたいデマを述べれば、そのデマは人心を惑わして、すぐ拡大してしまうのだ。

ネットメディアも、広告ビジネスにどっぷり依存するのならば、人の関心を引くためだけのアジテータ中心になるだろう。そうしたら、あまり既存メディア、つまりは「マスゴミ」と変わらないことが起きると思う。「マスゴミ」の正体が本当は何なのか、考える必要がある。

追記

はてブや拍手などから。

キャラクターの改変をして、どこまでが法的に複製でないか?ってのはケースバイケースなんでは?

俺は一貫してケースバイケースだって言ってんだろ。文章読めなさ杉にも程がある。

権利者のコントロールの及ぶそっくりさんと及ばない改変との境界に興味がある

まあこれもケースバイケースですが、最終的には「常識」ってことですよ。

サザエボンとかDOB君とか
ドテラマン裁判

だって、これらはどれも、まあそれなりに似ていたでしょ。

俺は、この3つの例ほど鹿とすく水の子とが「表現的」に似てるとは思えないし、この判断はわりと普遍的だと思うから、上に掲載したような絵を描いて公開してるけど、この俺の絵と民放連の鹿が「そっくり似ている」という人は、まあ世界も広いから少しはいるかもしれないね。俺の目には別物にしか見えんが。

この辺はバランスとか常識の問題だよ。 (2009/05/02 18:27追記)


さらに追記。

「美少女化なりショタ化なりムキムキな擬人化して描いた場合」○○『化』って言ってる時点で、同一性保持権を侵害してますって言ってる様なものかと。そういう絵は大抵「地デジカ」タグもセットだし。

一体どこのバカなら、擬人絵を地デジカそのものだと思うんだろうね? 誰が見ても別モノじゃん。ここまで表現が違うものは、別個の著作物になるんだよ。判例っぽい表現で言えば、擬人絵からは地デジカの「本質的な特徴を直接感得できない」と判断されると考えるのが妥当。

はてブを読んだり他のサイトを回ったりすると、一体どれだけの人が、著作権法を「表現規制法」のようなものと誤解しているのかと、空恐ろしくなる。 (2009/05/09 14:09追記)


さらさらに追記。拍手より。

地デジ促進キャンペーン」の偶像であるキャラをネットでの情報拡散にすら利用できない部分が叩かれてるのでは?

前にも書いた通り、民放連は粋ではないけど、適法な反応をしているだけだから、俺はあまり批判する気にはならんなぁ。著作権法を変えてフェアユース入れよう! とかいうんなら分かるけど。

後、「普及キャンペーンのためなんだからブログとかにもどんどんコピーさせろよ」って主張する人については、

私が民放連だったら卑猥な二次創作なんかより、ジデジカ(原文ママ)のステッカー作って脱獄製品に張って売るような糞業者が出てこないかの方が気になる

という、はてブコメントにあった危惧をどう拭うのか、尋いてみたい。 (2009/05/10 16:44追記)


さらさらさらに追記。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090508/194086/

こんな記事が出た。趣旨としては結構だが、小田嶋さん、あなたもガジェット通信の例の記事を満足に読めていないのに、「民放連にはメディアリテラシーがない」などと嘲笑するのは、いかがなものなのか。

別に俺、民放連をかばう気はまったく無いんだけど、真摯にモノを書こうというのなら、いくら自分の書きたい話に都合が良いからといって、煽り記事を丸呑みしてはいけないと思うんですよ。 (2009/05/12 05:30追記)

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著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2009-05-12 05:30:07


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