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排除対象としてのオタクと婚姻の不自由

森永卓郎氏の「オタク恋愛コンサルタントは日本を救えるか」という記事を読んで、なんだかモヤモヤするけど上手く批判できないというお声を目にしたので、2つ問題点を挙げてみる。

森永氏の記事は、オタクは本心では恋愛・結婚したがっているので、それを助ける仕事が日本では必要だ、というのが趣旨だと思われる。

まず、オタクは恋愛をしたがっているのに出来ていない、「二次元」へ逃避しているという前提がどうにも妙だ。

アニメ・マンガ・フィギュア等の制作・消費を趣味とする人達は恋愛・結婚ができない、という単純化がなされているようだが、俺の周りには、そういう趣味であって恋愛・結婚している人はいっぱいいる。大塚英志や岡田斗司夫や東浩紀といったオタクのパイオニアも、みんな(実質的には)結婚しているじゃん。

だから、オタクは恋愛・結婚できないという主張は、そういう趣味を持つ人達の中から、恋愛・結婚できない人達という集合を特別に抜き出しているわけで、逆に考えると、恋愛・結婚できない人間でそういう趣味の人達を、オタクと名付けているようなもんだ。

つまり、オタクという言葉を、自分が否定したい人達のレッテルにしている。 今の日本で、アニメを見たことない・マンガも読んだことないなどという人はかなりレアだ。モテなさそうな人を捕まえて「マンガを読みますか?」と尋ね、Yesと応えたらオタク扱いしてしまう、なんていうようなイメージでオタクという集合を形作るとすれば、この定義の曖昧な概念は、適当に都合よく膨らませていくことができる。

そもそもオタク概念の始祖である中森明夫も、 自分達とは違う価値観の人々を排除するための言葉としてオタクという語を使い出した。それは、中森がこの語を初めて使ったエッセイで、コミケに集まる人達を揶揄しているところを読んでもよく分かる。

東京中から一万人以上もの少年少女が集まってくるんだけど、その彼らの異様さね。なんて言うんだろうねぇ、ほら、どこのクラスにもいるでしょ、運動が全くだめで、休み時間なんかも教室の中に閉じ込もって、日陰でウジウジと将棋なんかに打ち興じてたりする奴らが。モロあれなんだよね。

髪型は七三の長髪でボサボサか、キョーフの刈り上げ坊っちゃん刈り。イトーヨーカドーや西友でママに買ってきて貰った980円1980円均一のシャツやスラックスを小粋に着こなし、数年前はやったRのマークのリーガルのニセ物スニーカーはいて、ショルダーバッグをパンパンにふくらませてヨタヨタやってくるんだよ、これが。

それで栄養のいき届いてないようなガリガリか、銀ブチメガネのつるを額に喰い込ませて笑う白ブタかてな感じで、女なんかはオカッパでたいがいは太ってて、丸太ん棒みたいな太い足を白いハイソックスで包んでたりするんだよね。普段はクラスの片隅でさぁ、目立たなく暗い目をして、友達の一人もいない、そんな奴らが、どこからわいてきたんだろうって首をひねるぐらいにゾロゾロゾロゾロ一万人!

『おたく』の研究(1)(漫画ブリッコ 1983年6月号)より

森永卓郎氏も、結婚・恋愛していない人間を否定したいがために、「オタク」という語を当てはめているのではないか。この記事の違和感の1つはここにある。

もう1つの問題点は、恋愛・結婚できないヤツが劣っているという価値観だ。この価値観はさらに分解出来て、恋愛=結婚という等式の問題点と、もう1つは、それができないヤツが劣っているという価値観そのものだ。

この辺は、本田透が「恋愛資本主義」と命名して散々批判しているから充分な気がするけれど、まず、元々恋愛と結婚は別物だ。

電波男
電波男
本田 透

例えば、平安時代の貴族は結構自由に恋愛していたようだが、結婚は一族が決めた相手と粛々と行って子孫を残す。また、赤松民俗学が描くように、夜這いやりまくりだが特定の相手と結婚する、というような世界も、恋愛と結婚が別物であると考えると理解出来る。日本で、恋愛=結婚という等式になったのは、せいぜい数十年だと考えられる。この辺は、デビッド・ノッターの『純潔の近代』などにも詳しい。

純潔の近代―近代家族と親密性の比較社会学
純潔の近代
デビッド・ノッター

で、恋愛=結婚が自由な以上、恋愛=結婚しないことも自由なはずなのだが、それは劣っているとされ批判の対象となってしまう。そういう価値観は本田透を初めとして色々な人が批判するのだけれど、日本で恋愛や結婚をしないでいる若者に有形無形の圧力がかかるのならば、日本の恋愛や結婚は、実質的には自由ではないということだ。

この不自由さの根は深い。しかし森永卓郎氏の記事は、そういう不自由さや息苦しさを全て、「オタク」という便利な否定のための語に封じてしまっている。そこがこの記事のもう1つの問題点だ。

まとめよう。おそらく皆の不満点はこういう辺りだと思う。

  1. 「オタク」を排除の言葉として使っていること
  2. 恋愛や結婚にまつわる閉塞感をオタクという語に押し付けていること

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著作者 : 未識 魚
最終更新日 : 2010-02-28 03:27:41


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